くらしき文化サポーター

中四国有数の拠点都市に成長した倉敷市。 観光地で有名なだけでなく、長い歴史と多くの文化遺産を有するまちなのです。少しずつ、このまちの文化を紹介していきたいと思います。

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(倉敷市児島通生の通仙園から「杓島」を望む。 写真右側の四つの島が杓島。)

 昔々の話じゃ。

 蒸し暑い夏の夜のことじゃった。
 そうそう、ちょうどお盆の夜のことでなあ。

 月明かりの中を、一艘の船が水島灘を進んでおったと。

 杓島あたりにさしかかったころじゃろうか。
 どこからともなく声が聞えてくる。
 耳をすますと、なんと海の中から声がするんじゃ。
 「柄杓(ひしゃく)ぅ貸せぇ、柄杓ぅ貸せぇ。」と、言うとるようじゃ。

 よう見ゅうると、海の中から白い手が何本も出てきょうるんじゃ。
 白い手は船のへりをつかんで「柄杓ぅ貸せぇ、柄杓ぅ貸せぇ。」言いながら、とうとう船を止めてしもうた。

 困った船頭は、「海の塩水の中では、のども渇くんじゃろう。船を止められてもかなわんけえ、柄杓に水をくんで海にやりんさい。」と言うたんじゃ。
 一人が柄杓に水をくんで海ん放ってやったところ、何本もの白い手が柄杓をつかんで海の中へ引きずりこんでしもうた。

 さあ、これで出発できらあ、と思うとったところ。
 柄杓をつかんだ白い手が、海ん中から、また目の前に出てきたんじゃ。

 船員があわてとるうちに、白い手は「柄杓ぅ貸せぇ、柄杓ぅ貸せぇ。」言いながら、柄杓で海水をくんでは船の中へ入れるんじゃ。
 船頭や船員は、「やめてくれえ、船が沈んでしまう。やめてくれえ。」言うんじゃけえど、白い手はぜんぜんやめてくれん。

 とうとう、海の水で一杯になった船は沈んでしもうたんじゃと。

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(大杓島、小杓島、砂杓島、茶瓶杓島の四島を「杓島」という。)

 杓島のあたりは、昔、源氏と平氏の大けな戦(いくさ)があってなあ。
 そこで死んだ連中が、海ん中で成仏できずに、こういうことをするんじゃと。

 じゃけえ、このあたりではこの妖(あやかし)を「舟幽霊」と言うて、気ぃつけにゃあおえん、言うとったんよ。

 特になあ。
 お盆にゃあ、海ぃ出るな、舟幽霊におうてしまうぞ。
 そう、言われとってなあ。

 せえでも、運悪ぅ舟幽霊におうてしもうたら、柄杓の底を抜いてから渡さんといけん。
 そうすりゃあ、海の水ぅくんで船に入れられることはないけえのお。

 わしらものお、小せえころは、「お盆のころは海ぃ出たらいけん。」とか「盆にゃあ川や池へ近づいちゃあおえん。」言うて教えられたんじゃ。
 この話んみてえに、水ん中で死んだ人間が、仲間あ探して生きとる人間を呼ぶけえのお。

 そう言われてなあ。
 きょうてえのお、きょうてえのお、言うておとなしゅうなっとったんよ。

 昔こっぷりどじょうの目。
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